密集居住区この街路空間における構成要素の生成・維持メカニズムに関する研究: バンコク・クロントイ70 ライ地区の路地空間分析から

摘要

従来の都市計画や建築計画の中で、あらかじめユーザーの主体性が及ぶ範囲を計画する居住地計画の手法は長く議論されてきてきたが、スケルトンインフィル型に始まり、その限界が指摘されて久しい。そういった観点で、理論的な計画がされていないにも関わらず、ユーザーの主体性の介入が見られる居住地域に注目が集まっており、近年それらの地域のサーベイを建築計画への手立てとする方法が試みられている。 一方で、東南アジアにおいて地域経済の牽引を担うタイは、その経済成長維持の裏に経済格差世界三位という課題に直面している。土地所有権を持たない住民への公共住宅供給においてはその厳密な計画性ゆえにジェントリフィケーションが生じることなどが相次いでいた。タイ最大のスラム地域であるクロントイスラムには再開発が実施された地域において、再び居住者による増改築が行われていったエリアがある。そこには計画者が想定する合理性の上に空間や制度が導入されたにも関わらず、住民各々の独自の居住空間が成立している。その独自性は住民が近代的プロセスを踏まない無秩序な居住区ではなく、都市計画がなされ一定の制約やルールがある上で住民が手を加えていった居住区にはユーザーの主体性に関する新たな視座を得られる可能性があるのではないか。このような観点のもと、本研究ではクロントイ70 ライ地区における計画段階とその後の居住者の建築的実践、それによってできる住居形態と街路空間に着目することで、居住区における計画者とユーザーのつりあいの課題の新たな視座を得る端緒としたい。