戦後市庁舎建築の導入空間における意匠表現と活動

摘要

戦後の日本において、市庁舎建築は行政事務を執りおこなう施設としてだけでなく市民生活の場となることで公共性を担ってきた。特に敷地の外側と行政窓口を取り結ぶ導入部（以下、導入空間）は、多数の人々が行き交う場であることから市庁舎建築の公共性が表出される空間と考えられる。例えば丹下健三の香川県庁舎では導入空間が上層階の機能空間と完全に分離され、また架構の反復による整然とした壁面に面することで、民衆に主体的な活動を委ねた象徴的な空間が表現されている。一方、近年では細かく分節された表層をもち具体的な活動の想定されたいくつもの空間が導入空間を囲むことで、多様な活動が混在した賑わいを創出する表現がみられることから、市庁舎建築における公共性が変容してきたと考えられる。そこでここでは市庁舎建築の導入空間における意匠表現と活動を併せて検討することで、建築家による公共性の創出手法の一端を明らかにすることを目的とする。