車内で計測した通過音に基づいた鋼製フィンガージョイントの異常検知の試み

摘要

橋梁に設置される伸縮装置は維持管理上，各種点検が実施されている．伸縮装置の劣化・損傷速度は場合によっては非常に速いが，交通規制を必要とするような箇所では5 年に1 度の定期点検以外に直接点検を行う機会がないのが通常であるため，点検を実施した伸縮装置であっても損傷事例が報告される場合がある．こうした現状から，定期点検の間に発生する変状の兆候あるいはその初期段階で発見する手段の開発が求められている．一方，既往研究で明らかとされた鋼製フィンガージョイントの損傷メカニズムより，損傷に伴う剛性の変化が加速度や通過音の変化として現れる可能性があることから，これまでに，日常点検における点検者の感覚に基づく判断に代わるような異常検知の試みが行われ，損傷に起因した通過音や加速度の変化から異常検知の可能性が示されている．しかし，伸縮装置の個体差等を原因としたばらつきにより定量的な評価が難しく，未だ実用化に至った例は少ない．以上の背景から，著者らは点検者の点検技術と補完し合い異常を検知するシステムの構築を目指し，通過音に着目した異常検知を検討することとした．既往研究において，車外で計測した通過音は走行音に埋もれてしまう可能性が高く，車内で計測した通過音では損傷による傾向を捉えられる可能性を示したことから，本研究では，車内で計測した通過音に基づいた検討を行った．まず，損傷を模擬した伸縮装置の通過音から，損傷に起因した通過音の傾向を明らかとした．次に，高速道路で供用中の伸縮装置の通過音から，模擬した損傷と同様の傾向が捉えられるか検討したのち，通過音に基づく損傷評価を行った．また，経時的な通過音の収集のため，約1 年後の通過音の計測を実施した．