長崎県波佐見町中尾郷における窯業景観の構造と歴史的価値

摘要

中尾郷における窯業景観の構造として二つの特徴が あげられる.一つは北西部，集落入り口からみえる，緩やかな斜 面地に形 成された まとまり のある集 落を背景 に窯元と 煙突群が 密集して いる景観もう一つは集落内 部でみえ る，両側を 高低差の ある山林 に囲まれ た谷地形 に登窯，炭 窯，ガス窯 など異な る年代の 窯業を支 えた工作 物がまh べhなく 配置された景観である（写真1).窯業の作業様式ならびに窯の 構造が変化したことにより過去の生業風景の一部が消 失したこと，一方でその変化に伴い新たな生業風景が 現れたことは既に述べた.すなわち集落での活動の内 容が変化しても生業としての窯業が継承されてきたと 捉えられ，ここに中尾郷における窯業景観の歴史的価 値を見出すことができよう.これらの窯業を通じた人 の営みと空間構成の変化，ならびに窯業発展の歴史を 理解するうえで，登窯跡や煙突群，道路などの要素は必 要不可欠であるといえる.他方，今回のヒアリング調査 より中尾郷と鬼木郷の間に，食料や労働力のやりとり という面で密接なつながりがあったことが把握された.