フレキシブル電子デバィスによる生体信号計測と神経刺激

摘要

有機物の中には，半導体の特性を示すものがある.多環芳香族炭化水素などの，広い共役系を持つ分子の場合には，電子が電子雲を経由して移動することが可能となる.分子の種類に応じて，p型半導体とn型半導体になるものがある.有機半導体を用いたデバイスは，柔軟で折り曲げが可能であるなどの，無機半導体には無い特徴がある.また，有機半導体材料は溶媒に溶かすことができるため，基板の上に印刷することができる.これによつて，紙やフィルムなどの様々な基板の上にデバイスの実装が可能であり，製造プロセスを安価に構築できる利点がある.無機半導体では，デバイスのサイズはウェハーの大きさによって制約を受けるが，有機半導体では，そのような制約は無く，飛躍的な大面積化が可能となる.このような特徴を活かして，照明やディスプレイ，太陽電池など，様々な応用が開拓されている.さらに，わずか数ミクロンの厚さのフィルムにトランジスタやセンサを実装することも可能になった[1-4].これらのデバイスの応用として，生体計測が活発に行われるようになつている.素子や基材を柔らかい有機材料で構成することによって，デバイスが生体や臓器の表面に追従し，様々な生理学的情報を測定することができる.特に脳や心臓においては，複雑な形状を持った表面において活動電位の分布を高い分解能で取得することや，神経に刺激を与えることが可能となる.また，薄くて柔軟なセンサを体表に貼ることによって，血流などの生体信号を継続的に記録することができるため，臨床でのモニタリングにも極めて有用である.本稿では，フレキシブルな電子デバイスによって実現される新しい生体計測を紹介する.