下水中SARS-CoV-2 RNA濃度に基づく COVID-19感染者数推定モデルの構築と適用

摘要

2019年12月中華人民共和国湖北省武漢巿において生じた肺炎の集団発生が新型のコロナウィルス(SARS-CoV-2)由来であることが判明した.その後急速に世界中へ新型コロナウィルス感染症(COVID-19)が拡大し，未だ日本を含む世界各国で流行状態が継続している1.この疾病の特徴として，感染した際に発症しない不顕性感染者が5-60%程度存在することや，発症しても軽微な症状に留まる感染者が多く存在することが挙げられる2.臨床的な症状に依拠した従来の疫学調査や医療機関に基づくサーベイランスでは，このような感染者の存在を把握することが極めて困難である.一方，環境工学分野では，症状の有無に関わらずSARS-CoV-2が糞便中に排出される点に着目し，下水中のSARS-CoV-2を調べることで感染者の存在を明らかにする取り組みがなされている(Wastewater-based epidemiology:下水疫学調査)3,数の下水疫学に関連した既往研究では，未処理下水中のSARS-CoV-2RNA濃度から一日あたり感染者数を推定している.しかしながら，潜在的な感染者数への換算等を議論する際には，試料採取時刻や下水中ゥィルス濃度の日内変動が大きく推定値に影響すると考えられるが，そのような不確実性や変動を考慮した枠組みは提案されていない.