あらせ搭載小型スタースキャナの概要と初期チェックアウト結果

摘要

スタースキャナ（SSC: Star Scanner）はスピン安定方式の宇宙機用の姿勢センサである．その動作は，機体のスピンと共に天球をスキャンし，V 字型のスリット形状のフォトダイオード（PD: Photodiode）により恒星光を検出し，その明るさと検出タイミングを電気信号として出力する．同じ恒星型姿勢センサとしてスタートラッカ（STT: Star Tracker）があるが，これは基本的に三軸安定方式用のセンサであり，スピンのような大きな姿勢レートには対応しない．スピン安定方式用のセンサとしてはスピン太陽センサ（SSAS: Spin Sun Aspect Sensor）や地磁気センサ（GAS: Geomagnetic Aspect Sensor）があるが，SSASは太陽方向まわりが不定なこと，GAS は地球から離れるとS/N が落ちることから，SSC が採用される．SSC の課題としては，PD 形状と回路定数の設計が搭載時の取付角とスピンレートによるため（宇宙機ごとに専用設計となるため），汎用性が低くコストが高いという点がある．宇宙航空研究開発機構（JAXA）は，戦略コンポーネントの一つとして，この課題を解決した「小型スタースキャナ（小型SSC）」を開発した1)．小型SSC は，従来のSSC と同等の機能・性能を維持しつつ，従来のSSC より小型・軽量で，更に，PD 及び回路の変更無く幅広い取付角とスピンレートに適用可能という特長を有する．この特長の実現の鍵は，今回新たに開発した低迷光型バッフルエッジと低ノイズ型PD の採用であり，これによりS/N設計に余裕が生まれ，この余裕をPD 及び回路の設計制約の緩和と小型軽量化に振り分けたことである．小型SSC は，地上試験モデル（認定モデル）の開発を2015 年2 月に完了し，フライトモデルの第一号がジオスペース探査衛星「あらせ」（ERG: Exploration ofEnergization and Radiation in Geospace）に採用・搭載された．あらせは2016 年12 月20 日に内之浦宇宙空間観測所からイプシロンロケット2 号機により打ち上げられ，「あらせ搭載小型SSC」（外観＝図1）は初期チェックアウトを無事完了し，現在，定常運用中である．本稿は，小型SSC の設計をその特長を踏まえて説明すると共に，あらせ搭載小型SSC の初期チェックアウト結果を報告する．