超低軌道領域における大気吸入型イオンエンジンの利用と課題

摘要

超低軌道(sub-LEO)領域での衛星の運用は大気抵抗が生ずるため高度を維持するために推進器が必要となる．そのため衛星に推進器用の推進剤を搭載する必要があり，その搭載量が衛星の運用時間を決定してしまう．大気吸入型イオンエンジン(Air BreathingIon Engine :ABIE)は超低軌道領域において高層大気中の主成分である原子状酸素を取り込hで電離し，生じたイオンを加速して放出することで推進力を得るイオンエンジンである1)．ABIE を推進器として利用することで推進剤の搭載量にミッション期間が制限されてしまうという問題を解決し，さらに推進剤の搭載が必要でないため，衛星の重量削減することも可能になる．しかしながら，ABIE を実現するためには，これまでのイオンエンジンとは異なる設計基準が必要であり，その地上試験方法にも多くの課題がある．特にイオンエンジンの運用にはプラズマ生成時に放電室内の推進剤の密度が1018～1019m-3 である必要があるが，ABIE の運用想定高度である高度200km 程度においては大気密度が不足しており，ABIE 運用のためにはより多くの高層大気を取り込み放電室内の粒子密度を増大させること，さらに低密度でもプラズマを維持できるようにプラズマ生成効率を上げることが必要となる．しかしながら，実験室内で超低軌道領域の中性ガス環境を再現することは不可能であり，地上実験には困難を伴う．そこで本稿では大気吸入型電気推進器研究の現状とSLATS への期待についてまとめる．