思陵宮門の塗装状況　ヴィエトナム?フエ阮朝王宮の復原的研究（その147）

摘要

本稿では思陵宮門塗装現況を整理した．顯徳門の塗装劣 化状況との比較により，類似する修理材料を使用した可能 性がある．思陵宮門で見受けられる粘土状の固形物を使用 する修理は，昌陵表徳殿5　でも類似例が見受けられるこ とから他の遺構との比較を行うことにより，修理材料から みる修理年代を判定できる可能性がある．思陵宮門の塗装 修理の特徴は，明らかに近代的な材料を使用しているにもかかわらず，卓越した文様装飾技能を有した技術者が修理 に従事したと思われる点である．近世日本塗装技術の発展 過程においては，従来の伝統的な塗漆技能を有する技術者 が，新しく西洋から伝来した塗料の油性ペイントを使用し たにもかかわらず，塗漆技術で培った卓越した技能を発揮 したこととヴィエトナムの事例は，類似する可能性がある． 今後は加飾文様分析，修理手法や材料分析を行い，塗装技 術を考察することが望ましい．