磁気ばねと磁気ダンパで構成された動吸振器による低固有振動数を持つ構造物の制振

摘要

高層ビル，長大橋梁，低剛性の宇宙用構造物などの柔軟構造物は，固有振動数が非常に低く，振動変位も大きく，減衰に時間がかかる．これらの低固有振動数を持つ構造物の主な振動制御法として，アクティブ振動制御とパッシブ振動制御がある．アクティブ振動制御は，アクチュエータを駆動して振動を制御する方法で，高い制振効果が得られるため，様々な機械や構造物に利用されているが，装置が複雑になり導入コストがかかる．一方，パッシブ振動制御の代表例として動吸振器が挙げられる．動吸振器は，特定の振動数に対して高い制振性能を示すため，動吸振器のパラメータを適切に調整する必要があるが，アクチュエータを必要とせず，簡単な構造で安価に導入できる．高層ビルなど低固有振動数構造物の制振に，重力を復元力とする振り子型の動吸振器を利用されている例があり，振り子型動吸振器の最適パラメータに関する研究も行われている．一方，打ち上げ時の制約や自重を支える必要がない構造から，軽量で低剛性の構造物となる傾向にある宇宙用構造物でも低周波振動の問題が想定されるが，重力が微小なため振り子型動吸振器は利用できない．そこで，磁力を復元力とした磁気ばねを用いた動吸振器に注目した．磁気ばねは磁石間距離を調整することで，容易に固有振動数を調整できる利点がある．磁気ばねを用いた動吸振器は，数十Hz の振動に対して良好な制振効果が得られているが，数Hz 以下の非常に低い固有振動数に対しては重力や摩擦が無視できず，その制振効果は確認されていなかった．著者らはこれまでに，磁気ばねを構成する磁石をガイドを使用せず，重力方向に垂直な方向に配置し，摩擦の影響を排除することで，1Hz 以下の低固有振動数においても良好な制振効果を確認した．しかし，過渡応答に対する動吸振器パラメータの最適化や動吸振器への減衰の付加方法について課題が残った．