ハイレゾ音源の量子化精度に基づく音質の変化

摘要

ディジタル形式の音源が普及し，1980 年代では音楽CD としてサンプリング速度44.1kHz，量子化精度16 bit の音源が普及した．その後，48/96 kHz といったサンプリング速度の向上，20/24 bit といった量子化精度の向上が積極的に行なわれている．2014 年頃から一般に普及したハイレゾリューションオーディオ（以後，ハイレゾ）とは，サンプリング速度または量子化精度が音楽CD の44.1 kHz, 16bit を上回った録音フォーマットとされ，その後，主にインターネット販売によって普及が進んでいる．ダウンロード販売の数は年々増加傾向にあり，ハイレゾ音源は，「品質が良い」「音像がはっきりする」といった声がSNS（Social Network Service）や各種メディアに寄せられているが，その科学的検討はあまりみられない．例えば，音質の良さではなく，聴取可能性つまり聞き分けができるかどうか，という弁別タスクの検討では，サンプリング速度 ，量子化精度それぞれについて検証が重ねられている．著者らは特に量子化精度について，その差による音の違いの聴取可能性について検討してきた．例えば，16 bit 音源と24 bit 音源の間で印象の差がみられることが示された．その後，24 bit 音源のダウンサンプリング（ここでは切り捨てによるダウンサンプリング）によって16 bit 音源を生成し，24 bit 音源と16 bit 音源を両耳にヘッドホンより呈示した場合の音像定位実験により，定位が移動するかどうかを調査した[6]．その結果，定位の弁別が可能であることが報告され，少なくとも量子化精度の違いに起因する差分成分が，人の音像の定位を伴う程度の効果をもたらすことが明らかになった．しかし，どのような音楽コンテンツにおける現象であるのかについては明らかになっていない．