心不全の病態概念と治療法の変遷

摘要

狭義の心不全の定義は，“心筋障害により心臓のポンプ機能が低下し，末梢主要臓器の酸素需要に見合うだけの血液量を絶対的に，または相対的に拍出できない状態であり，肺または体静脈系にうっ血をきたし，生活機能に障害を生じた病態”とされる．したがって，心不全は心臓ポンプ機能の低下（左室収縮性の低下）とそれに基づく水の体内貯留という認識であり，心不全研究の主眼も心筋細胞の収縮性低下機序の解明，左室収縮性を改善させる治療法の開発に置かれていた．しかし，その後の研究から，心不全重症度は左室収縮性のみで規定されているわけではないことが明らかとなり，病態を規定する因子としての体循環および心臓組織内における神経体液性因子やサイトカインなどの関与，心不全重症度を規定する因子としての左室拡張性の重要性などが明らかとなり，心不全の捉え方は，この20年間に大きく変化した．それに呼応するように，治療戦略における考え方も変わってきた． 本稿では，このような“心不全”の捉え方の変遷について概説する．