手術治療－効果とその位置付け

摘要

パーキンソン病に対する手術治療は，薬物治療と同様に，パーキンソン病症状を軽減しADLやQOLの改善を目的とする．薬物治療はドパミン補充を介して症状改善を行うが，手術治療はパーキンソン病症状の発現に関与する脳内神経回路の一部を直接的に破壊や刺激することでその機能を抑制して症状を改善させる，すべてのパーキンソン病症状について症状の発現機構がわかっているわけではなく，またパーキンソン病患者においてみられる症状がすべてパーキンソン病に由来するものでもない．本来のパーキンソン病症状に，L－dopaによる副作用や加齢，廃用などによる症状が複雑に関与してADL障害を引き起こす．手術治療を考慮する際に，患者のADL障害はどの症状が原因で起きているか，またその症状が何に由来するかをみることが重要である．パーキンソン病に対する手術治療のポイントは正確な手術と患者選択にある，と多くの外科医が述べている．手術の正確さが必要であることはいうまでもなく，患者選択は手術治療のよい成績をあげるためには当然の選択であるが，内科的な立場としてはそのニュアンスが異なる．パーキンソン病の病気経過は長く，壮年期に発症する場合が多い．壮年期を中心とした症例で長い病気経過中にいかによりよいADLやQOLを保つように治療するかが，パーキンソン病治療の焦点である．パーキンソン病の治療を開始するときにその症例ごとに長期経過の見通しを推察し，治療中においては施行している治療が正しいかどうかを自問しながら治療を行う．当然，種々の抗パーキンソン病薬を用いて治療を行うが，薬物治療の継続だけでよいのか，あるいはより積極的な治療を行うことでADLやQOLが改善できるかを常に考えている．患者の社会的活動性の維持を目指す場合に薬物治療の継続のみでそれが可能か，あるいは薬物治療の限界がきているかなどを判断しつつ治療しているはずである．その判断が内科的な立場における手術治療への最初のステップである．