バーチャル空間と現実空間における行動の比較分析と補間に関する検討

摘要

本研究では，現実空間と現在の「不完全なバーチャル空間」での行動を比較分析し，不完全なバーチャル空間で現実空間と同等の行動を行わせるための条件を明らかにすることを目的としている。今回はその最初の実験として，「リーチング」に関する実験を行う。リーチングとは，対象物体に向かって手を伸ばして掴む行動のことで，発達心理学で子どもの発達時の指標として用いられる，人の最も基本的な行動である。現実空間でのリーチングでは，腕のみの可動域の場合，対象物が掴める限界の距離にあると判断する距離（以下，把持臨界判断距離）は，実際に手が届く限界の距離（以下，把持臨界到達距離）のおよそ1.1倍（成人の場合）と言われている。今回はまず，現実空間とバーチャル空間でのリーチング実験を行い，その行動の違いを明らかにする。次にその違いの原因を明らかにするために，把持臨界到達距離と把持臨界判断距離の計測を行い，バーチャル空間における行動を現実空間での行動と同等にするための条件を導出する。最後に，導出された条件にてバーチャル空間を再構築し，最初と同じリーチング実験を行い，その行動がどの程度現実空間での行動に近くなったかを評価する。