赤からすと白うさぎの交差点：第16回 21世紀のニュートン育成計画？

摘要

現代社会において，あらゆる意味で大きな影響力を持つ中東のイスラム諸国。 その地で8世潔己頃から盛んになったアラビア錬金術は，今日の化学の起源ともいわれている。 錬金術自体の発祥は紀元頃のエジプトに遡るが，その後アラビア錬金術の祖と呼ばれるジャービル·イブン·ハイヤーンとその後継者たちによって確立された。 アラビア錬金術における操作や実験器具は，近代化学の言葉に置き換えてもそのまま通用するものが多く，13世紀以降，西欧の科学にも大きな影響をもたらしている。 何やら得体の知れない物質から金·銀などの貴金属を作り出すことが錬金術，とのイメージがあるが，本来の錬金術とは物質変換と同時に精神的変換も併せ持ち，物質の精製は魂の浄化のための作業として行われていた。 よって，錬金術から精神的側面を欠落させてしまったものが近代化学である，との見方もある。 われわれが暮らす21世紀では，株式市場が錬金術的様相を呈している。 ここで生み出される「金」はMoneyである。 売買手続きミスや風説によって，業績も売り上げも何ら変化していない企業の価値が，短期間で驚くほど変動する。興味は株価のみで，企業の業務内容も製品も知らずに頻繁に売買するプロ級の個人投資家も増えてきているが，企業に対する支持や共感という精神的側面が欠落し，単なるマネーゲームの道具となってしまったのだろうか？