病原微生物対策への理解に向けて

摘要

水道が多数の利用者に病原微生物を運び，病気を起こす可能性については，国の経済状態のいかんを問わず，どこの国においてもよく知られる事実である。 水道における病原微生物汚染の特徴は種類も量もともにつねに変化していることで，また，水道事故の常として，広い範囲に被害が及ぶ。したがって，社会生活への影響は甚大である。 欧米諸国におけるリスクを基にした管理では，汚染許容濃度すなわち患者発生数の許容範囲を定めて，その範囲内に汚染を抑えることを行なう。 しかし，病原微生物の許容汚染濃度を設定するさいに絶対値が存在しているわけではないため，目標値は技術的に到達可能な除去効率から算出され，患者発生に伴う経済的損失と，患者発生を回避するために必要となる設備投資とを比較する経済論が背景にあると理解している。 無遠慮なリスク論を展開すれば，経済を優先させるあまり不平等が生ずる事態を回避できなくなるおそれがある。 感染症を論ずる場合，個々の疾病の易伝染性（二次感染の確率）も重要な要素の1つである。 治癒することを前提にすれば，二次感染を防ぐことで流行は収束する。併せて，つねに健康弱者への配慮が求められよう。 経済論から離れて，このような感染症の特性を考慮しつつ許容感染リスクを設定していかなければならないものと考えている。