多剤耐性菌新興、拡大の現状

摘要

薬剤耐性菌（AMR: Antimicrobial Resistance)の克 服は人類が共同で取り組むべき最重要課題である (WHO AMRアクションプラン2015)。特に，主 要な抗菌薬に耐性を示す緑膿菌，大腸菌，肺炎桿 菌等多剤耐性グラム陰性菌が地球規模で拡大し， 世界の医療安全を根底から脅かすようになつてき た。特に，「切り札」といわれている抗菌薬カル バぺネムに耐性の細菌が医療施設で分離されるよ うになり，感染症の治療成績を著しく低下させ， 多くの国々で死亡率を押し上げる要因となってい る。2013年にはAMR感染症によって世界で70 万人が死亡したと推定されるが，対策を講じない 場合,2050年には世界で1,000万人がAMRによつ て死亡し，がんによる死亡者数を超えると推定さ れてレヽな(Review on AMR, O' Neill Commission) 0次世代シーケンサー技術の進歩によって薬剤耐 性菌の全ゲノムデータを容易に得ることが可能と なってきた。データベースの利用、拡大は世界で 分離される薬剤耐性菌のゲノムデータの比較を可 能にした。し力、し，多くの開発途上国においては， 耐性菌の検査、解析システムが未熟なため，その 実態は明らかになっていない。適切な対策を講じ るためには，先進国と開発途上国との協力体制を整備し，開発途上国の研究開発力を強化する必要がある。特にアジアにおけるAMRの克服には， 日本とアジア諸国との学術的な連携のもと，これ ら諸国の検査能力強化及び情報を収集、解析する AMR研究拠点の構築が必須である。