高齢者の弁膜症

摘要

弁膜症の有病率は年齢とともに増加すること が報告されており,その中でも特に僧帽弁閉 鎖不全症(mitral regurgitation: MR),大動脈弁 狭窄症(aortic stenosis: AS)が多い.また複数 の弁膜症を有している症例もある.弁膜症に対する治療技術の進歩も目覚ましく.本邦では2013年10月にカテーテルによる 大動脈弁留置術(transcatheter aortic valve implantation: TAVI)が導入され,2018 年 4 月 からはMRに対してもカテーテル治療(経皮的 僧帽弁修復術edge-to-edge repair: MitraClip)が導入された.その上,近年の健康意識，生活 習慣の改善,さらには医療水準の向上に伴い,わが国の平均寿命はますます延びている.健康 寿命の延伸に伴い,高齢者に対する治療選択が 変化している.さらに高齢者は弁膜症以外の併 存疾患を複数もっていることが多い.どの疾患 が予後を規定するか,予後規定疾患に介入でき るのかを検討し,複数疾患に介入するのであれ ば優先順位をつけることが必要である.またそ れだけではなくフレイル,認知機能,余命規定 因子，患者意思なども考慮し,ハートチームで十分に議論した上で治療方針を決定しなければ ならない.本稿ではMR, ASの病態,治療選択などに ついて具体例を交えながら考えてみたい.