ドライアイの自覚症状改善に向けた治療の現状と課題

摘要

目の表面は,光を屈折させる透明な組織である角膜でできており,外界の光が目の奥の網膜で像を結ぶために必要不可欠な役割を果たしている.角膜は,表面に細胞が露出した構造をとっており非常に繊細な組織であるが, 角膜表面を守り正常に機能するために, 水層と油層から成る涙液層で覆われている.水層は,目尻上部にある涙腺から分泌されており,瞬目により上下眼瞼を伝って目頭の方向に移動し,涙点で鼻涙管に取り込まれて排出される（図1A）. 一方,油層は上下眼瞼にあるマイボーム腺（図1B）より分泌されて水層表面を覆うように分布している.正常な眼表面では十分な涙液量と流量が あり,開瞼時の角膜表面は涙液層により常に全体が 覆われた状態である.しかしながら,眼表面疾患のドライアイでは, この涙液層の安定性が失われ,開 瞼後速やかに涙液層の破壊が起きるため,角膜表面 が外界に露出する.それに伴って,本疾患の患者には様々な自覚症状が生じる.ドライアイは, その疾 患名から乾燥感が主要な症状と考えられがちであるが,実際には不快感,痛みなどの乾燥感以外の知覚 異常や視覚異常など, 非常に多岐にわたる症状を伴う.これらの自覚症状は患者のQOLを著しく損ない, 労働生産性を低下させる.