ラット網膜における神経一グリア細胞を介する血管拡張機序

摘要

緑内障や糖尿病網膜症は,日本における後天性失明原因の上位を占める眼疾患であり,これら病態の発症や進行には,網膜循環障害が関与している.したがって,網膜循環障害の改善が,これら眼疾患に対する有用な予防?治療法となり得ると考え,筆者らは独自のin vivo網膜循環システムを用いて, 網膜循環に関する研究を進めている. 網膜循環を担う網膜血管には, 脳血管に存在する血液脳関門と同様の,血液網膜関門というバリア機能や, 血流の自動調節能も存在する.このように,網膜血管は脳血管との類似性が高く, 中枢血管に分類される.現在,中枢神経系の疾患研究において,神経細胞,グリア細胞および血管構成細胞間の相互作用の様子を示すneurovascular unitという概念が一般的になっている.このneurovascular unitは, 脳卒中の病態を理解することを目的として2001年に提唱されたものであり, 神経細胞単独 ではなく,その周囲に存在する種々の細胞を含めた脳全体を守ることが必要であるとされた.網膜においても,神経細胞,グリア細胞および血管構成細胞が相互に調節しあうことにより,その機能が維持されていると考えられ,網膜の神経細胞活動は,網膜血流を調節するうえで重要であることが報告されている.また,緑内障や糖尿病網膜症の病態におけるneurovascular unitの関与も示唆されている. したがって, 網膜を構成する神経細胞のみならず, その周囲に存在する血管構成細胞やグリア細胞を含む網膜全体の保護が, 種々の眼疾患に対する創薬標的となり得る. 本稿ではまず,緑内障および糖尿病網膜症の病態について解説する.次に, これまで十分明らかにされていない,網膜における神経細胞やグリア細胞を介した網膜血管緊張度の調節に関する筆者らの研究成果について紹介し,網膜のneurovascular unitを標的とした治療戦略と今後の展望について論じたい.