翻訳論文:心臓弁膜症手術の最近の知見:歯科口腔疾患との関連もふまえて

摘要

人口の高齢化に伴い,心臓弁膜症に対する手術が増加している。かつてはリウマチ性弁膜症が主体であったが,この20年は動脈硬化性あるいは変性性弁膜症が主体となり,その治療戦略も大きく変化している。弁閉鎖不全症に対しては,人工弁置換術と比べて抗血栓療法の回避や弁感染リスクの低減などの利点の多い弁形成術が多く行われるようになり,その優れた長期成績が明らかになってきた。歯周炎のような歯性感染症およびそれに関連する歯科口腔外科処置によって菌血症が惹起され,感染性心内膜炎の一因となることが知られている。感染性心内膜炎に対する手術は,心臓外科医にとって最も困難な手術の一つで,人工弁置換を行うことが多いが,可能であれば形成術を選択する施設も増えてきた。さらに手術器具や手技の発展に伴い,心臓手術の低侵襲化がすすんでいる。胸腔鏡補助下の肋間小開胸による弁膜症手術や,ロボット支援手術,さらに血管内治療の導入が急速に進んできた。特に,経カテーテル大動脈弁置換術(Transcatheter Aortic Valve Replacement: TAVR)は,外科的大動脈弁置換術と比較して優れた臨床成績が近年明らかになり,高齢者の大動脈弁狭窄症に対する標準的な治療法となっている.構造的劣化を来した生体弁に対する再弁置換術も,経カテーテル手技によるvalve in valve TAVRが可能になった。これらの低侵襲アプローチは,今後ますます発展しその適応が広がることが予想され,弁膜症治療体系が大きく変貌するものと思われる。