成人鼠径部ヘルニア手術に用いる メッシュの選択法と手技のコツ

摘要

鼠径部ヘルニアは,わが国において年間約15万件 の手術が実施されていると推計されるcommon dis-easeであり,対象症例と実施施設の多さから実施さ れている術式は多岐にわたり,全数把握は困難とさえ いわれている.成人鼠径ヘルニア手術の2大原則は “ヘルニア囊の処理”と“後壁補強”であることを示 したBassini手術(1897年)が長く標準術式とされて きたが, 組織修復法では,脆弱化した組織による修 復のために高率に発生する術後再発という問題点を克 服できなかった.しかし,約100年という長い開 発?改良期間を経て高品質のメッシュが普及するよう になった1990年代以降は,組織修復法に代わりメッ シュ修復術が成人鼠径ヘルニア手術の標準術式となっ た. 新たな形状のメッシュが多数開発された結果, 非常に多くの術式が鼠径部切開法として確立されたこ とに 加え,最近 では transabdominal preperitoneal approach (TAPP)法 や totally extra-peritoneal approach (TEP)法など鏡視下術式の普及も目覚まし い.この標準術式の乱立ともいえる状態は,初学者 にとってヘルニア手術修得過程における混乱の原因に もなりかねない.そこで,今回は各術式のポイントと して,現在本邦で成人鼠径部ヘルニアに対して標準的 に行われている術式をメッシュの展開?固定層の観点 から分類し，各術式で用いるメッシュの種類,各術式 における長所?短所を本稿の前半部分で述べる.また 後半部分では，ヘルニア手術の初学者にとって比較的 学びやすい術式(鼠径部切開法)の一つであるDirect Kugel(DK)法のメッシュ挿入?展開?固定のコッ を述べることとする.