イヌのゲノム情報の 獣医療への応用-現在の状況と今後の課題,発展につしヽて

摘要

イヌで疾患に関連するバリアン卜が同定されると，遺伝学的検査が可能になり，ゲノムに基づく診断，予後予測，予防といったゲノム情報の獣医療への応用が実現する。本稿では，イヌの疾患関連遺伝子や病的バリアン卜の同定方法から，現在同定されているイヌの病的バリアン卜の特徴，現在 のゲノム獣医療における課題などについて紹介する。イヌは数万年前に家畜化された後，2-300年 前ごろから外見や行動特性に特化した現在の犬種 が作られはじめ，現在では300種類以上の犬種が 国際的に認知されている1、その際，少数の繁殖犬を用いて犬種を構築したことや特定の形質を極 端に達させたことにより，犬種内の遺伝的な多 様性が低くなると同時に，特定の疾患になりやす い性質も保持することとなった。このような特定 の犬種に多く見られる疾患の一部は特定の遺伝子 の異常に起因する。疾患に_わる遺伝子（以下， 疾患関連遺伝子とよぶ）や疾患の発症リスクを上げる塩基配列の違 い（以下，病的バリアントとよぶ） を確定することは，遺伝学的検査 を可能とするためぺットとして飼 育されているイヌの健康の向上に つながる。本稿では，イヌの疾患 関連遺伝子や病的バリアントの同 定からゲノム獣医療における課題 まで記載する。本稿では特に生殖 細胞系列のゲノム情報（つまり， 生涯不変のゲノム情報）のみを対 象としている。