窒素汚染の解決と作物生産性向上に向けた生物的硝化抑制 (Biological Nitrification Inhibition; BNI)による「アンモニ ウムの活用」（“more ammonium”）という畑作農業の選択肢

摘要

FAOの統計によれば、世界全体で一年間に 農地に投入された窒素肥料の量は、2018年時 点で約1億800万トンとされる。1961年から 2011年までの50年間に窒素肥料の投入量は10 倍に増加したのに対し、実際に作物が吸収利用 した窒素の量は3倍にしか増えていない (FAOSTAT)。近代農業は、1840年にLiebig により刊行された「化学の農業及び生理学への fc、用（独：Die Chemie in ihrer Anwendung auf Agricultur und Physiologie)J により農業 における無機栄養（独：Mineraltheorie)の重 要性が指摘されたことに始まり、1906年にハー バー,ボッシユ法による工業的窒素固定の開発、 さらに1940年代から60年代にかけての CIMMYTのボーローグ博士により導入された 高収量品種群の組合せである緑の革命により、 穀物の生産性を画期的に向上させ、人類の生存 に必要な食料、特に穀物を大量増産することを 達成した。一方で、容易に入手可能な化石燃料 により大気中から固定された窒素肥料を農地へ 大量かつ連続して施用することで、生態系にお ける窒素循環は大きく攪乱され、特にアンモニ ア態窒素（NH4+;以降、本稿ではアンモニゥ ムと記載）を酸化し硝酸を生成することでエネ ルギ一を得る硝化菌は農地土壌において極めて 高い活性を示すに至った。このため、近代農業は窒素利用効率が低く、作物によって使われず に農地から環境へと放出される窒素は、投入量 の5-7割にものぼつている（Ladha et al., 2016)o経済的に見ても、損失が年間1兆円に も達する一方で、生態系の攪乱だけでは収まら ない、環境への影響も顕在化してきている。