血管合併切除を伴うPD:門脈再建,動脈合併切除

摘要

膵頭体部領域の膵癌は,診断時にはその解剖学的特性から門脈や上腸間膜静脈,そして肝動脈に浸潤をきたす症例をしばしば経験する.膵癌取扱い規約（第7版）では，総肝動脈のみに腫瘍の接触?浸潤を認める場合をBR-A,総肝動脈に腫瘍の接触?浸潤を認め，かつ固有肝動脈あるいは腹腔動脈に接触?浸潤が及ぶものをUR-LAと定義している.一方でNCCNガイドライン（2020, ver.1）では,総肝動脈への腫瘍の接触を認めるが,腹腔動脈または肝動脈分岐部への進展を認めず,安全かつ完全な切除および再建が可能な場合はborderline resectableと定義されているが，主観的要素が含まれており施設間で判定が一致しない可能性がある.肝動脈に浸潤を認める場合はBR-AまたはUR-LAに分類されるが,腹腔動脈に浸潤を認めない場合は固有肝動脈への浸潤の有無にかかわらず術式は総肝動脈合併膵頭十二指腸切除術（PD-CHAR）3,が選択される.よってわれわれの施設では，固有肝動脈まで浸潤を認めるUR-LAの場合も，肝門部までの浸潤を認めない症例はBR-Aと同様の治療を行っている.膵癌診療ガイドライン（2019年版）ではともに「推奨の強さ:弱い」ではあるが，切除可能境界膵癌に対しては手術先行ではなく，術前補助療法後に治療効果を再評価し，治癒切除可能か否かの検討を行った後に外科治療を行うことを提案しており，また肝動脈合併切除を行うことも提案されている.本稿では，門脈?総肝動脈浸潤を伴う局所進行膵頭部癌に対する門脈?総肝動脈合併膵頭十二指腸切除術の脈管切除?再建の手技について概説する.