水晶体の構造特性と関連疾患予防薬の 可能性

摘要

眼部の前面に位置し,光を網膜へ投影?結像させ る役割を持つ水晶体は, とてもシンプルで透明度が非常に高い組織である.その形状および透明度からしばしば「生体のダイヤモンド」とも例えられる. このダイヤモンドが混濁した疾患が白内障である. 白内障発症率は極めて高く,初期の混濁を含めた有病率は,50歳代で37?54%, 60歳代で66?83%, 70歳代で84?97%, 80歳以上で100%とされている.超高齢社会に突入した我が国日本において,白内障患者が急増することは想像に難くなく,また患者のQOLやQOV(Quality of Vision)を考えると, 白内障にならないに越したことはない. 白内障を発症すると,基本的に外科的水晶体再建 術が行われる.技術向上により水晶体再建術は完成 度が高くなり,いまでは日帰りで手術を受けることができる.今日の日本において,外科手術件数が最も多いのがこの水晶体再建術であり, その手術前後 で視機能が大きく向上することから,その満足度は非常に高い.一方で,手術が受けられない国や地域 がいまだに多く存在し,白内障予防薬の探索が求められている. 本稿では,生体ダイヤモンドの構造とその特徴について概説し,白内障の発症予防?治療の可能性について,筆者らの研究結果を中心に解説する.