未来医療に貢献するナノマテリアル イノベーションへの期待と課題

摘要

近年,ナノテクノロジーの急速な進歩により,ナノ粒子化した物質（ナノマテリアル）の研究開発 と実用化が,電子材料,エネルギー,環境，さらに身近なところでは化粧品,診断薬,医薬などで も浸透し,ヒトの健康や快適な生活に多大な恩恵をもたらしている.本稿では，多様化する創薬モ ダリティを支えるナノマテリアルへの期待と課題について俯瞰的に述べてみたい.一般的に,粒子 サイズが100 nm以下とされるナノマテリアルは,特徴的な生体内挙動を示すとともに,比表面積 が大きいことから，多くの薬物を吸着させ，輸送できるなど，様々な有用性が期待できる.近年， 医療分野においては，これらの特性を活用し，多様な材料から成るナノマテリアルを，標的部位選 択的に薬物を送り込むドラッグデリバリーシステムDDS）に応用する研究開発が進展している. また 物理的エネルギー（光?超音波?磁場など）に応答するナノマテリアルを併用して,薬物移行 性の改善や治療効果の増強を可能とする多機能性ナノマテリアルの研究開発も進んでいる.特に， 筆者らを含む国内複数の研究グループでは，超音波応答性のリピッドバブル（リン脂質と超音波造 影ガスから成る微小気泡）を基盤としたセラノスティクス（診断と治療の一体化）製剤の開発を進め ている.欧米では薬物移行性の向上を目的に，リピッドバブルと抗がん剤の併用による難治性がん 患者を対象とした臨床試験が開始されている.このように，世界中でナノマテリアルの機能性を生 かした様々な創薬研究が展開されている.