特集:外傷性凝固障害と外傷性DIC 序文

摘要

外傷性凝固障害(trauma-induced coagulopathy)の本態が,播種性血管内凝固症候群(DIC) であることは半世紀以上前から確立した事実です.しかし,欧米外傷外科医は外傷性凝固障害の本 態を希釈,アシドーシス，低体温が引き起こす二次性凝固障害と信じていました.2000年初頭に“外 傷自体”が凝固障害を起こす事に気付きましたが,彼らは病態生理をDICでは説明出来ず新たな 理論を構築する必要に迫られました.血栓をつくる病態でどうして出血するのだ,というわけです. このような状況下,2007年に血管内卜日ンビン産生減少が出血の原因であるとする活性化プロテ インC仮説が公表され，確立した外傷性凝固障害理論として世界へ敷衍し始めました.同時に,彼 らは外傷の世界にDICは存在しないとの主張を開始したため，国際血栓止血学会(ISTH) SSC DICが活性化プロティンC仮説への反論を公表しました.その後,血栓止血学と外傷外科学双方 から外傷性凝固障害とDICに関して多くの論文が公表され,また議論が行われました.この過程 で活性化プロティンC仮説は否定され，欧米外傷外科医が主張する外傷性凝固障害の病態生理は外 傷性DICと全く同じ病態になりました.唯一残っている論点は,欧米外傷外科医は「外傷初期の 外傷部位(血管外)の出血はhypocoagulationのためであり，トロンビン産生が血管内で減少して いることが原因である」と主張していることです.誤謬の理由は本文を参照して頂きたいのですが， 欧米の外傷外科医にはDICが血管内で血栓形成があり血管外では出血を来す血栓性出血性病態 (thrombohemorrhagic disorder)と呼称されてきた所以を理解して頂きたいものです.