胎児の薬物曝露を司る 胎盤トランスポーター群

摘要

妊娠中の薬物の服用は可能な限り避けるべきとさ れるが,薬物治療を必要とする妊婦の数は意外に多 < ,40—80%の妊婦は妊娠中に薬を服用する.治 療の対象となるのは，妊娠前から罹患している，あ るいは，妊娠中に新たに発症,発覚した高血圧，糖 尿病，感染症,てんかんなどである.2015年に米 国食品医薬品局(FDA)は,それまで胎児リスクカ テゴリーとして薬物ごとに定められていた分類を廃 止し，ヒトや動物で得られたデータを添付文書等に 文章で記載するとの方針に変更している.産婦人科診療ガイドライン産科編2020(日本産科婦人科学 会/日本産婦人科医会)では，「添付文書上いわゆる 禁忌の医薬品のうち,妊娠初期のみに使用された場 合，臨床的に有意な胎児への影響はないと判断して よい医薬品」の一覧を示した.近年では，胎児を患 者としてとらえ，胎児を治療するための経胎盤薬物 治療も行われている.したがって,薬物ごとの胎児移行性評価や，薬物を胎児に適切な濃度で到達させ るための制御方法の重要性は増している.本稿では 薬物の胎盤透過性と分子機構論を概説する.