家庭医療とクリニック開業?運営の実践

摘要

「家庭医療を学んでいて本当によかった」筆者が父親から診療所を継承して約3年経ち, 折に触れて頭をよぎるのがこの言葉である.筆者は研修医修了後に家庭医療後期研修プロ グラムで研鑽を積み,家庭医療専門医?指導医を取得した.卒後1〇年目で父親が運営す る診療所の院長職を継承し，名誉院長となった父親と二人三脚で診療に当たっている.父 親の専門は消化器外科であるが,長年家庭医療のマインドをもって診療をしており，幸い 父親の診療方針と大きく食い違ったことはない.そして父親も筆者の診療方針に異を唱え ることなく,どっしりと構えて見守ってくれている.父親は筆者が研修医のときに大病を 患い，身体が不自由となったのをきっかけに,患者さんをそれまでのように診ることがで きなくなった.それから10年が経ち，筆者が継承した当初の経営状況はかなり厳しく, 背水の陣でのスタートであった.先行き不安で圧し潰されそうになり，ビタミン注射など の自費診療や，宣伝?広告に労力とお金を使うことが頭をよぎった.しかし自分が培って きた家庭医療の実践がプライマリ?ケアの本質であると信じて,信条に合わない小細工は 使わず，自分が学んできたものを武器に真正面からがむしゃらに進んだ.すると驚くべき ことに数カ月で経営状態は大きく改善し,診療所の運営が軌道に乗ったのである.外来患 者さんの数も増え，継承してから新しく始めた訪問診療も多くの依頼をいただいている. ここまで順調な運営ができているのは,家庭医療プログラムで学んだことを実践できてい るおかげだと考えている.それに加えて,ベテラン開業医の先生方や臓器別専門医の先生 方の多くが，地域のニーズに合わせた素晴らしい診療を展開されており,諸先輩方の背中 から多くのことを学ばせていただいていることも大きな要因である.本稿では家庭医療で 学んだ経験をどのようにして診療所運営に活かしているか，7つのエッセンスとして筆者 の経験をお伝えしたい.