サクラ属果樹の栽培における温暖化に伴う障害の発生とその対策

摘要

近年，地球温暖化の進行に伴い，農業生産において高温による様々な障害が発生している（Sugiuraら，2012).そ のうち果樹栽培では，ブドウゃリンゴの果実の着色不良， ナシの休眠芽の発芽不良や果実のみつ症発生，温州ミ力ン の果実の浮き皮発生などが大きな問題となっている（杉浦 ら,2007).サクラ属果樹においても，モモやカンカオゥ トウの果肉の生理障害，カンカオゥトウの果皮の着色不 良，カンカオゥトウやウメの結実不良，モモの幼木の凍害 などの障害が既にいくつかの産地で発生している.また， 今は問題となっていないものの，冬季の低温遭遇量の不足 による発芽不良も生じることが予想される.地球温暖化の 主因とみられる人為起源の温室効果ガスの排出は今後も続 くことから，さらなる気温上昇が避けられないとみられ る.これにより，サクラ属果樹の高温による障害の発生は より深刻になると思われ，対策が急がれるところである. 亜熱帯性果樹などの高温条件に適した樹種への植え替えは 1つの対処法ではあるものの，果樹は植え付け後何十年も 栽培される永年性作物であること，新規作目の地域ブラン ド化にはかなりの時間と労力を要することなどから，容易 ではない.よって，当面は同じ樹種での栽培技術や品種の 改良による対策を考える必要がある.本総説では，サクラ 属果樹のうち，日本で多く栽培されているモモ，二ホンス モモ，ウメ，カンカオゥトウの温暖化による障害の現状と 対策について紹介する（第1表).