脳腫瘍と免疫システムUpdate

摘要

これまで脳は免疫学的に特別な場所と考えられてきた。これは,脳には通常の免疫系が存在しないという理論に 基づくものであった。一般的に，免疫系は外部からの病原体や異物を検出し,排除するための複雑なネットワーク である。しかし脳は血液脳関門と呼ばれる厳格なバリアによって脳外の物質から守られており，通常の免疫細胞が 脳に入り込むことはできず，脳に病原体が侵入した場合でも免疫反応が制限される傾向がある。近年,悪性腫瘍に対する免疫療法は格段に発展してきており,特に免疫チェックポイント阻害薬は実臨床におい て確実な効果をあげている。そこで,脳腫瘍に対してもその効果が期待され，様々な臨床試験が試みられている。 しかし免疫チェックポイント阻害薬の二ボルマブを用いた膠芽腫に対する臨床試験(CheckMate 498)では，ニボ ルマブとテモゾロミドの併用療法が標準療法と比較して生存期間に有意な差をもたらすことができなかったと, 2019年に発表になっている。このように,他の癌腫と比べ原発性悪性脳腫瘍の免疫療法は困難を極めている。