長い長いお付き合いの教科書たち

摘要

故冨田幸雄先生に卒論から博士課程修了まで流体力学·レオロジーをご指導いただいた．流体力学の学び方，考え方はある教科書を使った研究室のゼミで習得した．助手から准教授までご指導いただいた白樫正高先生も同門の先輩であったことから研究室のゼミでは同じ教科書を使い，教授として勤務している現在も使い続けている．その教科書がSchlichtingの「Boundary-Laver Theory」（9th ed., Springer, 2017）である．初版発行が1955年で，私が学生時代に学んだのは第6版（1968年版）であった．もともとドイツ語で出版された書籍の英語版であり，イギリス式の難解な単語や言い回しが多かった．また，ある程度の流体力学の知識を持つものが読む専門書であるため説明を省略している箇所が多く，きちんと理解するには「行間を読む」能力が必要となる．学生時代には四苦八苦して何とか日本語に訳しても肝心の内容が理解できないことが多かった．このためこの本を理解するためには他の教科書を合わせて読む必要があり，ゼミの際にはこの教科書とは別に絶えず10冊前後の教科書を横に置き付箋を貼ってすぐに参照できるようにしていた．私の手元資料には「この式は〇〇先生の本の何ページに展開がある」とか「この部分を〇〇先生はこう解説している」というメモがたくさん書き込まれている．ゼミでは先生がその日の指定範囲の内容について学生を指名して様々な質問を投げかけるため，何を聞かれても答えられることを目指して事前にできる限りの準備をしていた．そのためのメモである．教科書を深く読むための良い訓練となった．