建築家のノブレス?オブリージュ

摘要

筆者が建築を学びはじめたころの1980年代後半、すでに安藤忠雄(1941年生まれ)はスター建築家の道を歩んでいた。まだ住宅や集合住宅、商業施設などの仕事が多く、海外の仕事はなかったが、代表作のひとつになる光の教会(1989年)ほか、兵庫県立こどもの館(1989年)などの公共施設を手がけるようになった時期である。そして住吉の長屋(1976年)は、すでに伝説的な存在だった。雨の日は傘をささないと、トイレに行けないという話もよく語られていた。もちろん、一般のメデンアでは、元プロボクサーという経歴も、紹介するときの枕詞のように、使われていた。そう、専門誌だけでなく、一般人にとっても有名な建築家なのである。実際、彼が講演会などでしゃべる言葉は、いわゆる建築家の小難しいものではなく、むしろ関西弁を武器に、しばしば笑いをとってしまうものだった。