五十嵐太郎の先読み編集局第165回 偽の二項対立に騙されるな

摘要

大西麻貴は来年のヴェネツィアビエンナーレ国際建築展の日本館のチーフ·キュレーターをつとめることになったが、彼女の建築ユニットo+hが設計した山形のシェルターインクルーシブプレイスコパルは、まさに「愛される建築を目指して」という展示のテーマにふさわしいものだった。この児童遊戯施設は、ワークショップを通じて、さまざまな障害に対応するデザインをとり込んでいる。が、それらはわざわざ付加したものではなく、自然に建築の個性と魅力を増していくものだった。例えば、全体をなめらかにつなぐランドスケープとしてのスロープ、ジグザグの手すりや素材の選択などである。またうねる形状の屋根ゆえに、雨天の日は特定の場所に水が集中的に落ちるのだが、コパルの館長はここを滝を眺める場所という風に命名していた。すなわち、ともすれば欠点になりかねない部分さえも、個性としてみなすこと。まさにインクルーシブの態度が建築にも向けられている。コパルの規模は想像以上に大きく、コンピュータがなければ、難しい複雑な造形をもつが、もしザハ?ハディドの新国立競技場案もこのような建築だったら、バッシングを受けず、白紙撤回にならなかったのでは、とふと思った。