稀代の傑物，菅敏幸氏を傯んで

摘要

この世で菅敏幸氏（以後菅さんと呼ぶ）ほど型通りの追1卓文が似合わない人物はいないだろう。私の前をド夕ド夕と音を立てて駆け抜けていった「この愛すべき男」の思い出を，彼が一番愛読した有機合成化学協会誌の読者諸氏と共有したいと思い筆を執った。私が初めて菅さんに 会ったのは1996年の始め頃で，前年に赴任した東大薬学部で二人目の助手を採用する面接の時だった。既にァメリ力で面接した徳山英利さん(現東北大学薬学部教授） が着任しており，冷静沈着で何事も卒なくこなす，スマートな徳山さんの対極にあるような菅さんが加われば面白い研究室になると思い即座に採用を決めた。彼の第一印象は「少し粗野ながら，情熱的で人間くさい」という私自身に欠けたキャラクターの持ち主というものだつた。後にノシル基（主として2-nitrobezenesulfonyl基） の権化と自負していた菅さんだが，採用試験としてノシル基がチォレート処理すると脱離する反応のメカニズムを聞いたところ.Meisenheimer錯体を経由することを知らなかった（図1)。