保育者における自律的な感情労働の自覚が保護者支援に及ぼす影響一保育者のストレス?効力感の変化に着目してー

摘要

わが国における核家族化や都市化の進展という 社会状況は,家庭の養育力の低下，育児の孤立を 招き，育児に悩む保護者を増加させている。また 共働き世帯は増加の一途を辿っており，保護者の働き方が多様化してきたことも相まって,2008年 改定の保育所保育指針では保護者支援が保育所 の重要な役割の一っとして明記されることとなった。このように，積極的な保護者支援が求められる一方で，保護者を支援することが,保育者にとつ て保育における困難感や悩みの原因になっている場合が少なくない。兼間は保育士のストレス要 因について年齢別にアンケート調査を実施し，20 歳代で60%, 30歳代から50歳代以上で80%を超え る保育士がストレス要因として，保護者対応や保 護者のニーズの対応困難感を挙げていることを明 らかにしている。また，岸本らは，保護者支援で抱える困難感の内容のうち保護者の養育態度， 自己中心的な保護者,要求の強い保護者といった 保護者に起因する困難感の割合が最も多いことを明らかにしている。保育者には保護者からのクレーム回避というミッションが課せられ,時には 無理難題とも思える保護者ニーズに応えるため， 様々な場面で感情のコントロールを強いられ精神 的疲弊が生じている。このことは,現在のわが国 において深刻な問題の一つとされている保育者の 離職率,保育士不足と大きく関連していると言える。