コロナ禍と原子力災害 ライフリテラシーの試金石

摘要

私は福島の原子力災害とコロナ禍の両方に、公衆衛生と検査医学の専門家として少しずつ関わった、という、少し特殊な経験を持つ。そこで本稿では二つの災害で繰り返された科学技術と社会の乖離につき考察しようと思う。これは本特集の主旨から若干外れるかもしれないが、少なくとも人々の暮らしと共に発展してきたエネルギー業界にとり、ある程度意味があるのでは、と考えるためだ。福島の原子力災害とコロナ禍。両者に共通するのは、「エビデンス」を用いた常識同士の衝突だ。たとえば今般のコロナ禍において、感染症の専門家から見れば感染予防のために人流を止めることは常識だ。しかし、経済学の専門家の目には、過剰な自粛はむしろ多くの人を犠牲にする「暴挙」に映るだろう。実社会においても、人の交流を長期に断ち切ることは、人として決して当たり前ではない。「不急の用」の自粛要請が一年半以上続く、という矛盾に耐え切れず自粛を放棄する人が出ている事実が、これを端的に示している。