ゲノム編集ニヮ卜リ：新時代の二ヮ卜リ遺伝子操作の展望と課題

摘要

2020年のノーベル化学賞は生物の遺伝情 報を効率よく改変できる「ゲノム編集技術」を 開発したエマニュエル.シャルパンテイエとジェ 二ファーダウドナが受賞した。2012年の論文 発表から短い期間で受賞したことは、ゲノム編 集技術が社会に大きなインパクトをもたらす優れた技術として高く評価されている左証でもあ る。受賞理由にはゲノム編集技術を「遺伝子の ハサミ」と紹介し、「この遺伝子のハサミは、生 命科学を新しい時代に導き、多くの点で人類に 最大の利益をもたらしている」と評価している。 「遺伝子のハサミ=ゲノム編集技術」はすべて の生物が持つ数万個の遺伝子の集合体「ゲ ノム」の中から、①狙った場所を②正確に切断 し書き換えることが可能で、③さまざまな生物 で応用できる技術である。ヒトの病気の原因遺 伝子を正確に切断し、治療したり、好ましくない 品質の原因遺伝子を正確に切断することで優 れた品種改良に繋げるなど幅広い分野での 利用が始まっている。畜産分野でも角を持たず 除角作業が不要の牛1や病耐性の家畜の開 発、低アレルゲン性の畜産物生産3などに期 待が寄せられている。筆者らは2016年に世界 で初めて卵アレルギーの主因である「オボムコ イド」遺伝子にゲノム編集で「ハサミ」を入れ、 この遺伝子を働かないようにしたゲノム編集二ヮトリを作出した4。また、卵白タンパク質の最大 成分である「オボアルブミン」遺伝子を切断し、 代わりにヒトの肝炎やがん治療に使われる「ィ ンターフヱロン」遺伝子を挿入することで卵白 に大量のインターフェロンを生産する新技術を 開発している5。本稿ではこれら技術について 紹介し、今後の展望について述べるとともに課 題についても筆者らの見解を示したい。