II.がん悪液質薬物療法の進歩

摘要

悪液質とは慢性疾患の進行により消耗状態が持続し, 瘦せ衰えていく病態である。原因となる慢性疾患は,が ん,感染症,呼吸器疾患,心疾患,膠原病など多岐にわ たる。悪液質のうち,がんに関連するものを特にがん悪 液質という。体重減少，食欲不振,倦怠感などを主な徴 候とし,がん患者の生命予後やQOLの悪化に関連する。 迷信や呪術を排除して詳細な観察や臨床経験を重視し 現代の医学にも影響を与えている古代ギリシアの医師ヒ ポクラテス(紀元前5世紀?前4世紀)の時代にはすで に認識されていたようで,cachexiaという英語もギリシ ア語が語源とされる。古代中国やわが国でも類似の病態 を思わせる記述がある。古くから記述はあるものの,定義付けされたのは比較 的最近である。2006年に米国で開催されたcachexia consensus conferenceにおいて,悪液質は「基礎疾患に 関連して生ずる複合的代謝異常の症候群で,脂肪量の減少の有無にかかわらず，骨格筋量の減少を特徴とする」 と定義された?飢餓,加齢による筋肉量の減少,うつ 状態,吸収障害や甲状腺機能亢進症とは異なる病態であ る。2010年の欧州臨床栄養代謝学会(the European Society for Clinical Nutrition and Metabolism: ESPEN) において悪液質の病期分類が提唱され,前悪液質,悪液 質,不応性悪液質の3ステージに分類された。