低炭素鋼母材と再現HAZ材の疲労亀裂伝播特性および十字溶接継手の疲労寿命の評価: 繰返し弾塑性応答に基づく溶接継手の疲労性能評価: 繰返し弾塑性応答に基づく溶接継手の疲労性能評価

摘要

疲労寿命は一般に疲労亀裂発生寿命と疲労亀裂伝播寿命に分けて議論される．疲労亀裂伝播寿命は，破壊力学に基づくParis則による応力拡大係数範囲Δkを用いた手法が広く採用されており，ΔK弾性FEM解析によって容易に算出可能であるため，エンジニアリングツールとして活用されている．しかし，一般に高サイクル疲労となる小規模降伏条件下での適用を前提とするため適用範囲は限定的であり，ましてや疲労亀裂発生寿命は評価できない．一方で，近年では応力集中部からの疲労亀裂発生とその後の伝播寿命までの評価を目的とした理論的な研究として，最大荷重時に形成される引張り塑性域と最小荷重時に形成される圧縮塑性域が重なる領域として定義される繰返し塑性域寸法に注目した研究が行われており，二軸応力の影響や変動荷重に対する検討なども精力的に進められている．疲労亀居裂発生寿命については線図を取得することで統計的な分析が行われてきたが，一般に泡裂の起点となる溶接止端部等の応力集中部は形状が複雑であり，溶接プロセスに伴い発生する残留応力や熱影響による強度不均一も重畳することから各種影響因子を切り分けた統一的評価には至っていない．また，溶接継手に生じる疲労亀裂は主として溶接熱影響部（HAZ）に発生し，その後，継手形状や板厚に応じてHAZまたは母材部に進展するため，HAZの疲労亀裂伝播特性や繰返し応力ひずみ関係を考慮した疲労寿命評価について数多くの研究が行われてきたが，疲労荷重載荷過程に繰返し回数に応じて現れる疲労特有の弾塑性挙動を考慮して疲労亀裂発生寿命を評価した例はない．