金属ナノ粒子の光熱効果で制御する薬物放出システム

摘要

薬物を必要な量，必要な時間に，必要な場所で作用させるという薬物送達（ドラッグデリノくリー）に関する研究が盛んに行われている.デリバリーするということは，目的の場所に運ぶことはもちろん，薬を運ぶ箱（キヤリア一）も必要となる.キャリア一として，リポソームやポリマーが一般的に利用され，目的の細胞に正確に届けるために，細胞選択的に結合するリガンド修飾が行われる.また，標的としない細胞に認識されないようにポリエチレングリコール（PEG)でキヤリアーを修飾する.ポリエチレングリコールは体内のタンパク質や脂質との非特異的な結合を抑制する.このように薬物をキャリアーで梱包し，体内に投与するが，その複合体は目的組織に到達した後，開梱されなければいけない.これまでは，成り行きで開梱（薬物のキヤリアーからの放出）されることを想定していが，最近では，その目的組織の独特の環境に応答し，薬物が放出されるシステムが多く報告されている.例えば，腫瘍組織ではpHが低下していることを利用し，pH応答性のキヤリアーを設計し，腫瘍組織でのみ薬物を放出させたり，腫瘍組織特異的に発現しているプ口テアーゼに注目し，そのプロテア一ゼの基 質ペプチドと組み合わせ，ペプチドの切断に合わせて薬物が放出するようなシステムが報告されている.このようにさまざまな機能を盛り込んだ薬物キヤリアーが開発されてきたが，しかし，工夫すればするほど薬物-キヤリー複合体は複雑になることを意味しており，実用化を考えると，好ましくない.さらに，総合的なデリバリーの効率は現在でもいいとはいい難く，これまでとは違う概念を取り入れる必要がある.