精密制御された動的な微小反応場が拓く超分子反応

摘要

反応装置の開発は，従来の化学反応の効率や生産性を格段に向上させてきた.例えば，アンモニアの工業生産を可能にしたハーバー·ボッシュ法における高圧反応装置の開発はその好例であろう.実験室で普段使用する反応容器も単に溶液を入れる器ではなく，濃度，溶媒極性，温度，圧力などはもちろん，分子拡散や反応時間なども精密に制御するために独自に進化してきたといえる.こうした新たな反応装置の開発は，生産性の向上だけに留まらず，新たな化学反応の発見に結びつき，それまでは存在しなかった新規物質を作り出す原動力になってきたことはいうまでもない.反応におけるパラメータの適切な制御は，分子同士が互いに衝突する際の最適な分子環境を作り出している.化学者は反応装置を通して反応場を制御することで，物質変換の可能性の枠を大きく変革してきたといえる.