脺癌オルガノィドによる個別化医療の可能性と 問題点

摘要

難治性腫瘍の代表である脺癌の治療は，多くの場合に手術適応がないため標準化学療法が実施される. 使用する抗癌剤の選択は患者の年齢や全身状態に応じて決定され，現状では患者個別の遺伝情報が反映 されることはない.近年，患者の脺癌組織から採取した脺癌細胞を生体外で長期的に培養することが可能 となった.脺癌オルガノィドとよばれるこの三次元構造体は，患者脺癌の遺伝情報と表現型を保持した生 体外モデルであり，従来のヒト脺癌モデルである脺癌細胞株や患者由来異種移植モデルでは不可能で あった患者ごとの疾患モデルを作製することを可能とした.多数例の脺癌オルガノィドを使用した薬剤 感受性試験が実施され，脺癌オルガノィドは治療効果の予測指標として妥当であることが実証されてい る.癌細胞と間質によって構成される脺癌ェコシステムの全体像が反映されているわけではなく，患者脺 癌の完全なモデル化とはいえないが，現行の画一的治療から患者ごとの個別化医療へ転換するための ツールとして大きな期待が寄せられている.