家業である歌舞伎俳優を継ぐ者たちにとっての健康; 探索的ならびに質的記述的研究

摘要

国際労働機関(International Labour Organization; ILO)は,1920年代半ばから芸術家の一部 である実演家の権利について議論し 不当に見過 ごされてきた実演家の経済的な権利や利益を守る ために，芸術活動を「労働」ととらえていった。 舞踊家,俳優，音楽家といった芸能実演家が活 動する舞台芸術の仕事に関連して安全と健康を脅 かす要因には,騒音,舞台表面の硬さ,滑りやす さ,および傾斜，高所作業,重量物取り扱い，急 激な視環境の変化，舞台転換,小道具の形状と操 作,演出で用いる霧に含まれる化学物質や土など に含まれる微生物などがあり,聴力損失，接触あ るいは墜落による負傷や死亡,繰り返される動作 や長時間の固定などによる筋骨格系疾患などがあ る。また，米国と英国での研究では,夜の公演 後に食事し就寝までに間があかない,ツアーの場 合は公演地間の移動の負担,労働環境が毎日違う, エクササイズに充てる時間の減少，健康的な食生 活の維持の難しさ,時差等による睡眠への影響な どが報告されている。日本の芸能実演家では, 仕事上のケガで治療を要した経験のある割合の高 い分野はバレエに次いで歌舞伎であり,歌舞伎は 個人負担になっている仕事上の必要経費のうち, 身体ケア，ケガ?病気予防に伴う支出が8割と他 の分野と比較して突出して高い。