気候変動の緩和?適応政策と沿岸域における取り組み

摘要

以上本稿では,気候変動対策の国際的な枠組みや,その緩和と適応にむけた国内政策の概要，沿岸域における多様な取り組みを紹介した後，海洋産業セクターを超えたシナジー創出の可能性について議論した。SDGsのネクサス?アプローチでも議論されているように,環境問題の多くは相互に密接に連関している。産業セクター間の適切な連携と調整を実現すれば,海全体としての相乗効果を創出できる可能性がある。とくに沿岸域の場合,食料生産，海運，観光，エネルギー生産，環境保全ゃ自然再生，ブルーカーボン，希少生物保護，環境教育や研究，そして気候変動の緩和など，多様な目的の活動が重層的に存在している。こうした沿岸域利用の多様性は，ともするとそこから生じる社会的摩擦や負の外部性に注目が集まりがちであるが,しかし多様性は可能性でもある。沿岸域という場の，同じ生態系機能?構造を共同で利用しているという自然科学的事実をベースとしつつ,その相互作用を正確に把握?分析したうえで，総合海洋政策という全体的な視点からの企画?調整を行うことにより，単一の産業セクターだけでは生み出しえない相乗効果を積極的に創り出していくこと,そしてその結果として，海の持続可能な利用と保全の調和を実現していくという政策理念が，今後の沿岸域における海洋政策の重要な方向性である。