乳腺腫瘍

摘要

猫の乳腺腫瘍はそのほとんどが悪性の乳腺癌であり，数少なく存在する良性病変も乳腺癌の前癌状態であ ることがある。少ない良性病変のなかで比較的目にしやすいのはホルモン感受性の過形成病変である。猫の乳 腺腫瘍の大部分を占める乳腺癌は犬の乳腺癌より発生率は低く，しかしながら雌猫の腫瘍としては3番目に 多く発生する（皮膚腫瘍，リンパ腫に次ぐ)。乳腺癌の危険因子として，年齢,猫種，ホルモン関連性が報告されている。さらに避妊手術の実施時期による 乳がんの発生低下率の違いが知られており，6力月齢以前に避妊手術を実施したときの乳腺癌の発生低下率 は91%以下，7-12力月の場合は86%，13-24力月で11%, 24力月以降は予防効果なしと報告しているものが ある2猫の乳腺癌のStagingは，腫瘍サイズ，リンパ節転移,遠隔転移の有無により異なる。さらに猫の乳腺癌 は悪性度が高く,リンパ節転移による予後の違いが知られており乳腺の拡大切除(片側乳腺切除術）が症例 の予後を左右することが最近わかってきた乳腺の拡大切除は鼠径部リンパ節郭清につながる一方で，副腋 窩,腋窩リンパ節は乳腺部には存在しないため事前に郭清するブランがないと取り残してしまうため注意が 必要である。このような拡大切除を行っても術後に遠隔転移が認められるケースは存在し，遠隔転移のリスク があると判断される症例においては術後の補助化学療法が推奨される。しかしながら猫の乳腺癌に対する抗 がん薬治療は，治療が効果的であるかどうかを含めエビデンスに乏しい。これは評価する症例の条件を揃える ことが難しいと共に，残念ながらStageが進行した状況で外科治療や補助化学療法を行うことがまだ多いこと も原因の1つと考えられる。今後猫の家族への乳がんの早期発見啓蒙ならびに，一般診療における乳腺チェッ ク，一貫した正しい外科治療を行ったうえで，前向きに術後の補助化学療法の真の効果を評価していく必要が あると考えている。