若手病理医のためのキャリアパス講座［10］実験病理学者のキャリアパス

摘要

今回,相村春彦教授から「若手医師に多彩なキャリ アを提示したいので,海外での留学経験や病理の実務 とはひと味違う実験法について紹介してほしい」とご 依頼いただいた.私はこれまで初期臨床研修,大学 院，ポスドク留学,大学教員という,実験病理のキヤ リアとして普通すぎる道をたどっており,本連載に寄 稿されている他の先生の稀少性には遠く及ばない. 「ひと味違う実験法」というのはゼブラフィッシュの ことであろうが,これは日本では認知度が高くないが 世界的には広く用いられている一般的なモデル動物で ある.したがって,私はあくまでごく普通のキャリア で実験病理の王道をやっているつもりでいた（変わっ ているのはパーソナリティーだけ）.しかしながら 2000年代以降,私が歩んできたような普通の実験病 理のキャリアを選ぶ医師が急激に減っていることもま た事実である.これは疾患概念の深化と細分化,診断 の標準化や治療の多様化などで日常の診断病理に要求 される能力や労力の水準が高まり，同時に病理医育成 にかかる教育プログラムが洗練されてきたことによる のだろう.さらに研究についても,実験手法の発明や 深化によって原著論文をまとめるのに要求される標準 的なデータ量が増え，より多くの労力を注がなければ ならなくなってきている.よって，診断と実験を両方 やってこそ成立する,かつての実験病理の王道の生き 方をこれから選択するのはたいへん難しくなっている ように思う.よって,本連載が読者として想定する若 手病理医にとっては，私の経歴も多彩なキャリアを提示する本企画の一例として選ばれるぐらいには変わっ ているのかもしれないと考え，執筆をお引き受けする ことにした.本稿では「かってはありふれていたが現代には稀少 となった普通の実験病理学者としての生き方」,なら びに「日本ではあまり流行っていないゼブラフィッシ ュを使った組織再生研究」について紹介する.病理専 門医試験対策のために本誌を手に取った病理専攻医の うち何人かが,道を誤って実験病理に転向されること をあわよくば期待している.