脈管の脈管

摘要

“血管炎‘’を研究のテーマとしている一人として, 血管壁内に存在する血管「脈管の脈管vasa vasorumj はいつも気になる存在である.本邦では稀になった が,梅毒関連大動脈炎におけるvasa vasorumの閉塞 性内膜炎は教科書に必ず記載される.高安動脈炎では 外膜からの炎症によって中膜外側の弾性線維が虫食い 状に欠落（蚕食）し，中膜のvasa vasorum周囲に炎症 細胞浸潤をみることがある.さらに，大動脈解離や大 動脈瘤を鏡検する際には，動脈壁内の拡張したvasa vasorumに加えて外膜結合組織内に内腔狭小化を伴 った,著明に肥厚した壁を有する筋型動脈をみること がある.大動脈など大型血管のvasa vasorumは容易 に認識できるが,病変のない中型筋型動脈のvasa vasorum を見つけることは難しい.vasa vasorumはど こから出てどこへ流れていくのか,血管壁内ではどの ように分布するのか,さらに動脈硬化症や動脈解離, 血管炎の病態にvasa vasorumはいかに関与するの か,正常解剖から病的状態までvasa vasorumについ てその多くを知らないまま過ごしてきた.最近,"On vasa vasorum : A history of advances in understanding the vessels of vessels"。というレ ビューに出会った.vasa vasorumに関する200編以 上の文献が引用され，vasa vasorum研究の歴史や研 究の概要がこだわりをもって記載されている.私にと って初めて知り得たこと,なるほどと思うことが数多 くあった.既にご存じの方も多いとは思うが,この中 から日常病理診断に役立ちそうなvasa vasorumの基 本知識を紹介してみたい.