物理化学的手法による有機質埋蔵文化財の保存処理

摘要

我が国で出土する有機質の文化財は含水率が著しく高く、従来の伝統的修理技術では対芯が出来ない。 中でも大量に出土する木製品は樹種·木取り·劣化状態が著しく多様化しているため,多くの課題を含む。 その解決法として、木材表面のかたさ測定による劣化状態の把握、実用化に向けての保存処理法の比較、最も普及しているPEG含浸試料の30年にわたる長期的安定性を追跡した。 また、最も困難とされる二股のそり状木製品の各部位の伸縮の傾向をクラスター分析により統計処理し、マッピングに成功した。 さらに複合的な保存処理を要する17世紀後半の胞衣(お産の際の後産:胎盤)を入れたと推定される青銅製容器内の副葬品のうち、我が国で初めて生体である胞衣を発見し、民俗·歴史学に貢献すると同時にそれぞれの遣物の同定と保存処理を行い、良好な保存を可能とした。